【セミナー】
神戸女学院・灘・洛星に聞く

『国語力』の身につけ方

灘中学校・灘高等学校 教頭・国語科 久下 正史先生

灘中学校・灘高等学校 教頭・国語科
 久下 正史先生

[2]中学・高校の授業の工夫

国定 小学生に授業をしていると、個人差はあるものの文章を読むスピードが遅くなっていると感じます。現在の中高生はいかがでしょうか。中高生の国語の力の現状についてお聞かせください。

久下 わたしが中学生の時は、祖父が持っていた林不忘や吉川英治などの時代小説の全集を読んでいました。今の小説と比べて圧倒的に語彙レベルが高く、語彙力・読解力の育成には最適だと思います。とはいえ、さすがに今の生徒に読めというのは酷な話かもしれません。灘の生徒を見るかぎり、国語の能力が下がっている気はしませんが、語彙が少し古くなるととっつきにくく感じるようです。
 中1の初めの授業で国語が好きかと聞くと、誰も手を挙げません。おそらく点数を取るための受験勉強をしてきて、国語はおもしろくないのでしょう。一方で、本を読むのが好きな生徒は多くいます。彼らの持っている知的好奇心をどれだけ広げていくかが大事です。興味のあることを調べてみる、読んだことのないものを読んでみる、文章を読むことを楽しむ経験の中でことばを増やしていくのがいいと考えています。

松本 国語の力の現状はわたしも悲観的ではありません。時代の方向として、わかりやすいものが良いものだという風潮は行き過ぎている気がしますが。わからないものをわからないまま持っておくことが許されないというような雰囲気が、もしかすると国語の力にも影響しているのかもしれません。はたらきかけという意味では、おじいさん、おばあさんとのやりとりは大事です。小学生からすれば、ずいぶん前の語彙でも通じ合う喜びがあります。わたしもおじいさんの部屋にある古い本を、興味を持って読んでいました。
 授業では、どれだけ文章に深く入り込ませるかが勝負です。生徒が「これはこうですね」と言って、周りも「おっ」という瞬間こそ国語の力が広がる時だと感じます。また、教科書やテストのような細切れの短文ではなく、本を一冊読み通す力はいつの時代も必要です。授業では夏目漱石の『こころ』や遠藤周作の『沈黙』をじっくり読んでいます。音読もとても大切なので、ぜひ声に出して読んでほしい。保護者の方にはお子さんの前で本を読んでくださいと伝えたいです。

阿部 わたしの両親も本をたくさん読んでいて、子どものころから休日には家族それぞれが読書を楽しんでいました。親がおもしろがっていることは、子どももまねをします。
 毎日の授業では松本先生が言われたように、実感を大事にしています。作品はできるだけ季節に合ったものを選び、鳥の声や咲く花を授業中に体験します。そうやって体験した作品は忘れません。心のはたらきも同じで、友人とのぶつかり合いがあっても、本を読んでいれば自分の体験を重ね合わせて言語化していくことができます。神戸女学院では朝の礼拝など、生徒が全校生徒の前に立って話す機会がたくさんあります。クラブ活動や学校行事で活躍する人が、実はどれだけ苦しかったかと涙ながらに語る姿に、後輩は未来の自分の姿を見ながらわたしもがんばろうと追体験しています。

石原 子どもは親を見て興味・関心を広げていくので、大人がどういう姿を見せるかが重要です。ぜひお子さんに読書する姿を見せてほしいです。また、お子さんの話をたくさん聞いて、たくさん共感してあげることも国語の力の幅を広げることにつながると思います。