<特別講演>

遊ぶように学ぼう
大学行くのは何のため?

[2]研究成果は社会の役に立つ

 わたしは福岡県の田舎の生まれです。小学生のときにテレビで京大の生物学者を見て、ちょっと奮起して京大に入学しました。もともとは魚に興味があったのですが、入試の成績順で希望とは違う農学部農林経済学科に入ってしまいました。思うような学問ができず、腐ることもありましたが、アジアを代表する両生類分類学者の松井正文先生に出会ったことで、大学院では両生類の研究に取り組み、今に至ります。
 そんな研究をして何になるんだとずっと言われてきましたが、実は意外と社会の役に立っています。たとえば、法律で保護されているトウキョウサンショウウオと対象外のトウホクサンショウウオを見分けるためのシステムの開発のその一つです。トウホクサンショウウオと偽ってトウキョウサンショウウオを販売するのは違法ですが、専門家にしか見分けられないのが課題でした。誰でも簡単に判別できるシステムを警察などに配布することで、生物保護に貢献したいと考えています。
 特別天然記念物である日本固有種のオオサンショウウオと、外来種のチュウゴクオオサンショウウオの交雑に関する問題にも20年ほど取り組んでいます。外来種や交雑個体を取り除いて日本のサンショウウオを守る活動です。交雑が進むと日本固有種か外来種かわからなくなるので、スマホで撮った写真でAIが判定するアプリをNTTドコモと一緒に開発しているところです。これが使えるようになると、市民の方でもオオサンショウウオの写真を撮って通報できるようになります。ほかにも、標本を展示する子ども向けの移動博物館を開いたり、環境系のイベントで外来種の問題や生物多様性について話をしたりしています。
 今後は、生物多様性保全が経営課題になるともいわれます。生き物の研究なんてして何になると言われてきましたが、環境や生き物が非常に大事な時代になってきたと感じています。