【特別座談会】

「考える力」をはぐくむ教育とは

[1]進学校では「考える力」は育たない?

髙宮 本日は社会をリードする卒業生を数多く輩出してきた甲陽学院・東大寺学園・灘の校長先生に、どのような環境が子どもの「考える力」を育むのか伺っていきます。最初のテーマは「進学校では考える力は育たない?」です。大学入試では、ペーパーテストだけではない総合型選抜の比率が高まってきています。一般選抜に強い従来型の進学校では知識偏重の教育が行われていると考える方もいるようですが、本日お集まりの進学校では、どんな授業が行われているのかお聞かせください。

今西 進学校は考える力を育てていないといわれるのは心外です。甲陽学院は長く進学校と呼ばれてきましたが、考える力を育てていなければ、進学校ではあり続けられなかったと思います。大学入試改革の議論が活発だった数年前には、「(大学入試は)記号選択式問題ばかり」「センター試験の問題は丸暗記で解ける」といった明らかに事実と反するデマが飛び回りました。事実を無視して結論ありきの議論を誘導する、あるいは知識偏重か考える力かという二項対立に落とし込むような枠組みがあったと思います。
 甲陽学院では、各教員がそれぞれに工夫することで生徒の考える力を育んできました。最先端の機器を使った授業をする教員もいれば、昔ながらの「チョーク&トーク」の授業をする教員もいます。教員のそういった創意工夫を妨げないことがいちばん大事だと考えています。

本郷 東大寺学園でも、授業は完全に各教員に任せています。教員に自由がなければ、生徒の自由を担保できないからです。本校の教育方針の第一は「基礎学力の充実」ですが、これは簡単なことをしっかりやるという意味ではなく、大学や大学院に進んで学問や研究に取り組むのに十分な学力を身につけるという意味です。探究心を育てて、もっと学びたいと考える人になってほしいという願いもあります。そういう生徒を育てることが学校の目的と考えています。
 文部科学省は「主体的・対話的で深い学び」と盛んにいいますが、みずから主体的に学ぶのは当たり前の話です。本校では従来からそういう教育を行ってきました。一方、タブレットを持ってグループで話し合うような授業は魅力的に映りますが、大切なのはそれが深い学びになっているかだと思います。議論の質を高めるには、正確な知識の習得が必要です。それから知識を活用し、考え、意見をまとめるというようにしていくべきだと考えています。

海保 灘での学びは、知的好奇心や探究心が原動力になります。そういう学びでなければ、思考力は身につきません。中学受験を経て入学してきた本校の生徒は十分にそうした力を持っていますが、わたしたちはさらにそれを刺激する仕掛けをたくさん用意して、自由に動き回れる環境を整えています。
 わたしは道徳やSDGsの授業を担当していますが、生徒からは次から次へと質問があります。これはまだ難しいから触れないでおこうと思っても、必ず誰かから「それはどうなっているんですか」と指摘されます。ですからどの教員も、授業準備に膨大な時間をかけています。考えることを軽視した授業はありません。