【特別座談会】
甲陽学院・東大寺学園・灘

「数値化できない、名門校の学び」

灘中学校・灘高等学校 校長 海保 雅一先生

灘中学校・灘高等学校 校長
 海保 雅一先生

[4]金融教育はどうあるべきか

髙宮 2022年度からは高校で金融教育が必修化されました。学校現場からはどう教えるか悩んでいるという声も聞きますが、灘校出身で金融教育家として活躍する田内学さんは、お金をどう運用するかではなく、お金の役割とは何かを説いています。各校では今どのような金融教育を行っていますか。

海保 金融リテラシーを身につけるのは大事ですが、投資セミナーのような授業をするのはおかしいと感じています。田内学さんには家庭科の金融教育の一環として中学1年生に授業をしていただきました。田内さんがおっしゃるように「お金は誰かに働いてもらうためのチケット」であり、世の中全体を豊かにするためにどうやってお金を動かすかを考えることが、金融教育の本来の目的だと思います。

衣川 家庭科では、金融教育の一つとして会社を2つ選んで投資したつもりで、1年間の値動きをチェックする授業を行っています。生徒のなかには実際に株を売買している生徒もいます。卒業生で、マネーフォワードという会社を設立した辻庸介さんにも講演会に来てもらいました。キャリア教育として話をしてもらったのですが、お金はもちろん大事だけど、家族や友だちと過ごす時間、趣味を楽しむ時間、仕事を通じて人に感謝される幸せなど、ほかにも大事なものがたくさんあると話されました。マネーフォワードはお金に振り回されず正しい知識を身につけようという会社だそうですが、金融教育もそういう方向で進めていかなくてはいけないと思います。

本郷 なぜ勉強するのかという問いを高校生に投げかけると、多くは大学に入るためと答えるでしょう。なぜ大学に入るのかと聞けば就職するため、なぜ就職するのかと聞けば給料をもらって生きていくためと答えるでしょう。そこで気づいてほしいのは、今まで自分を育ててくれた人たちに感謝し、これからの人たちにそして社会に貢献するために仕事をして生きていくということ。お金は生活をしていくうえで必ず必要なものなので、お金の意味やどう使うべきかについて考えていく、つまり人生全体を考えながらお金とのかかわり合いを考えていくのが金融教育だと思います。そんな方向で生徒がとらえられる授業を実践していきたいです。