【特別座談会】

「考える力」をはぐくむ教育とは

[4]社会を切り開く卒業生たち

髙宮 考える力を育てるには自由な環境が大切という話を伺ってきました。では、そういった校風の下で育った生徒たちは卒業後、どんな活躍をしているのでしょうか。

本郷 各分野でリーダーとなって活躍するOBは非常に多くいますが、本日は大学入試がうまくいかなかった卒業生を紹介したいと思います。1人は虫が好きで、昼休みも放課後も虫を追いかけていた生徒です。彼は大学入試では志望校に合格できませんでしたが、その後、生物を研究する東京大学の博士課程に進んで、今は研究所のリサーチアシスタントも務めています。中高時代に自由に虫を追いかけたことが将来につながりました。
 もう1人は部活動に夢中になって、6年間勉強をしなかった生徒です。1年浪人をして、これまで本校卒業生が行ったことのない関西の私立大学に進学したのですが、その後、大学初の国家公務員総合職に合格して防衛省へ入省。大学のホームページのトップに学長と握手をしている写真が掲載されました。彼もまた中高時代を自由に過ごしました。学校は無力だったかもしれませんが、本校で好きなことに没頭したことがよかったのかもしれないと感じています。

海保 灘校では、特にリーダーを育てることを意識した教育を行っているわけではありません。多くの卒業生が、「精力善用」「自他共栄」の理念を体現しようと努力するうちに、結果として各界のリーダーとして活躍していることを、誇りに思います。

今西 以前から政治家や官僚より民間企業で活躍する卒業生が多かったのですが、近年はアントレプレナーも増えています。最近では、沖縄のサンゴが生息する環境を東京に移送する技術を開発して起業した卒業生もいます。大学・大学院では人工知能の研究をしていましたが、ふと「珊瑚のことばかり考えていた少年時代」を思い出して路線を変更したそうです。人生は道をいろいろ変えていくものです。そのなかで自分のやりたいことを見つけた話を聞くとうれしくなります。
 甲陽学院を卒業したベンチャー企業のトップはおっとりしているともいわれます。才能ある人を「とがった人材」という比喩がよく使われますが、「マイルドで丸い人材」がいてもいいのではないでしょうか。これも本校の卒業生の気質です。