【セミナー】
神戸女学院・灘・洛星に聞く

『国語力』の身につけ方

洛星中学校・洛星高等学校 国語科 松本 匡平先生

洛星中学校・洛星高等学校 国語科
 松本 匡平先生

[3]入試問題に込めた狙い

国定 入試問題は学校の顔ともいわれます。先生方は入試問題を通して受験生にどんなメッセージを発信しているのでしょうか。また、受験生のどんな力を試そうとしているのかをお聞かせください。洛星中は有名な文学作品からの出題が多いです。自分の考えを書く作文問題を必ず出題する意図も教えてくだい。

松本 毎年、文学作品を出題していますが、すでに読んでいるから有利になるということはありません。小学6年生の男の子には厳しいだろうと思いつつ、本文からパッチワークのように適当に抜き出して答えを作るのではなく、その文章を読んでどうとらえたか、どう考えたかを問いたいのです。文学作品は本文のことばだけでは答えを出せませんし、自分なりに学んだことばを少しでも入れないと説明になりません。
 かつて「和歌を知りたい」と相談してきた理系の生徒と高3の11月から古今和歌集を一緒に読んだことがあります。彼は現役で京大に合格し、防災土木工事を専門に学んで博士論文では武田信玄の『甲陽軍鑑』をテーマにしました。当時の土木工事を現代に蘇らせるためとのことでしたが、文系や理系に関係なく、文学やことばに対する感性は絶対に必要と感じました。洛星では文学作品の出題をずっと続けています。少しでもいいので自分のことばを使って「ぼくはこう考えた」と書いてほしい。答案はとことん見ています。

国定 神戸女学院中の入試問題は、自分のことばでまとめる記述問題が多いです。今年は出題されていない詩の問題も含めてボリュームが多く、時間内に記述するのは大変という印象です。

阿部 入試に関しては、ここ数年傾向を見直し、問題数を減らしつつあります。文章が長く出題数も多かったため、中身をよく読まずにマス目を埋める解答が散見されるようになったからです。めざしているのは、文章をよく読み、出題者の意図を見極めて自分のことばにしてもらうこと。詩の出題に関しては、今後も出す場合と出さない場合があります。小説に関しては解答が揺れないように問い方には非常に気を使っています。体験と感情の話と重なってきますが、たとえば作品のなかでの表情や仕草はどんな感情を示唆しているのか、文脈によってはことばの表面的な意味とは違った意味があり得るといったことは当然理解しているものとして出題しています。そういったことをきちんと読み取れる力、全体を読んで解答を作っていく力を求めています。

国定 灘中は1日目、2日目と入試があり、1日目は知識問題が多く、今年は語彙の問題で「しかつめらしい」の意味を答える問題がありました。どんな意図で出題されたのでしょうか。2日目は詩の出題が特徴的で非常に難しいです。どういう力を求めているのでしょうか。

久下 1日目は語彙や漢字の問題、2日目はしっかり読んでもらう読解問題という形式で実施しています。「しかつめらしい」は、大正時代の終わりから昭和の初めの小説によく出てくる語彙のようです。今の小学生も読んでいると思いますが、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズにもでてきます。日本国語大辞典を引いてみると、語釈によく使われています。特徴のあることばなので、本を読んだり、辞書を引いたりしたときに、意識しなくとも「変わった響きのことばだな」と頭の片隅には残ってもいいことばだと思います。日常の読書体験の中で、ことばに興味を持つなかで自然と語彙を身につけて欲しいと思い問うています。どの問題もそうなのですが、2日目の詩の問題は、特にぶれがでないように教員が何時間も議論して問題や解答を練り上げます。必ずしかるべき誘導がついていますから、そこに注意してもらいたいと思います。テーマが介護であったり、今年は女の子が女の子に憧れる内容だったりと、小学生、あるいは小学生の男子には理解が難しいものだと思いますが、自分にはない感覚をつかみとって何とかことばにする努力をしてほしい。分からないものを分からないなりにも理解しようとする、そのような努力をしてほしいと思っています。

国定 石原 各校の国語教育の意義がよくわかりました。先生方、本日はありがとうございました。