〈聞き手〉SAPIX教育事業本部 本部長
広野 雅明先生
広野 藤岡先生の作品は入学試験の題材にもよく使われています。非常にていねいに取材をして書かれていることが読む側にも伝わってくるので、入試にも出題されるのではないかと感じます。
藤岡 わたしは、努力は報われると信じています。今報われなくても、いつか報われると信じていて、それを伝えたい思いが常にあります。希望が持てる物語を書こう、努力はけっして無駄にならない物語を書こうと決めているので、それが子どもたちに伝えたいメッセージとして、入試の問題に選んでもらえるのではないかと思っています。
広野 いくつか藤岡先生の作品をご紹介したいと思います。まずは2021年発行の『金の角持つ子どもたち』について、あらすじや執筆の動機をお聞かせいただけますか。
藤岡 『金の角持つ子どもたち』は、わたしの息子の中学受験をきっかけに書いた作品です。子どもたちはサッカーや野球で活躍すると賞賛されますが、中学受験でがんばっても賞賛されません。息子は今大学生になりましたが、中学受験ほど親子で必死に取り組んだことはありません。小さな小学生が受験に向けて一生懸命にがんばった姿に感動し、その貴重な数年間を物語にして残しておこうという思いで書きました。
広野 登場する塾の先生もリアリティーのある描写がされています。
藤岡 いろいろな紆余曲折があり、そのなかで塾の先生に励まされこつこつ積み上げていく。子どものなかには炎のようながんばりがあって、その炎の瞬間を切り取りたかったのです。
広野 中学受験をさせる理由を塾の先生が説明するシーンがいいですね。「勉強は努力を学ぶのにいちばん適した分野で、学力は人生を裏切らない」と。非常に大事なことだと思います。
藤岡 息子は体も小さかったので、中学で野球部に入ってもずっと補欠で一度も公式戦に出場できませんでした。そのときに勉強はすごく平等だと感じましたし、個人のがんばりがこんなに報われる場所はないと思いました。こつこつやっていれば確実に成長できる、誰にでもチャンスをくれる場所だと感じました。
広野 2025年5月に発行された『僕たちは我慢している』という本についてもご紹介いただけますか。
藤岡 この本は都内最難関の中高一貫男子校がモデルになっています。学年の半分が東大に行く学校の生徒さんやOBの方に取材して書きました。部活を続けるかなど、多くの高校生が持つ葛藤や悩みに向き合う男の子4人の物語です。息子が高校生になり進路に悩んでいるときに、大学受験の物語を書こうという気持ちでまとめた作品です。どうやって勉強すればいいのかといったことを含め、大学受験がリアルにわかるように書いた一冊です。
広野 リアルな高校生の姿が描かれ、具体的な勉強法もかなり細かく書き込まれています。どのように取材をしたのですか。
藤岡 京都に住んでいるので京大の学生に取材をしたり、現役の高校生に話を聞いたりしました。都内の高校がモデルなので、その学校のOB の方にもお話を聞いて人物像を作り上げていきました。4人の男の子それぞれに違う背景を持たせ、読んでくれた高校生が自分はこの子だと思ってくれるようにしています。
広野 この作品は高校生が主役ですが、いい味を出す先生も登場します。お子さんの中高の先生方を意識してお書きになったのですか。
藤岡 息子は中学受験を経て中高一貫男子校に入りました。男の子は中学に入ると母親の言うことは聞かなくなりますが、学校の先生のことは好きでした。中学になると、親よりも先生や友だちなど周りの環境がこの子を育てていくのだと感じました。先生のひと言がこんなに染み入るのかと実感したので、勉強する意味や大学を選ぶときの思いを子どもたちに伝える先生をこの本にも登場させました。