【セミナー】

知的好奇心を刺激する『理数教育』の魅力

−開明・須磨学園・西大和学園−

[2]数学・理科の特色ある取り組み

広野 PISAやTIMSS といった国際学力調査では、日本の子どもの数学的リテラシーや科学的リテラシーが東アジアの国々より下位にあることや、数学・理科の勉強が楽しい、得意と答えた子どもの割合が低いことが明らかになっています。どうすれば楽しく勉強できるのか、どのように得意になっていくかがこれからの課題と感じます。そのためにはまず、数学や理科が好きになることが第一歩でしょう。中高での授業や学習は非常に重要です。3校ではどんな工夫をしているのでしょうか。

古庄 開明が授業として力を入れている教科は数学です。生徒全員を理数コースという形で募集していることもあって、数学をおもしろい、楽しいと思える教育を行っています。理科教育では、実習を重視。たとえば、和歌山県で行う1泊2日の理科実習研修では、理科の教員全員がサポートして、磯での生き物観察やグループでの実験などを行います。翌日には自分たちでまとめたレポートをみんなの前で発表します。
 発表の機会が多いのも本校の特徴で、中学での毎年の弁論大会ではクラス予選を経て、代表生徒が中学3学年全員の前で発表します。中3以降は、グループでの研究発表にも挑戦します。こうした取り組みは、大学受験で最近増えている学校推薦型選抜や総合型選抜での合格者の多さにもつながっています。特に京都大学には昨年と今年で7名ずつが合格し、全国最多の合格者数となりました。わたしが担任した生徒は研究発表を通じて農学に興味を持ち、修学旅行先で農家の話を聞いて農業の課題を解決したいと考えた経緯を志望理由書にまとめて、京都大学農学部に合格しました。大学受験のためではありませんが、試行錯誤しながら生徒にとってよりよい理数教育ができるよう取り組んでいるところです。

吉田 須磨学園の理数教育は、中学から高校にかけて、探究の講座から始まり、個人研究へと発展していきます。探究講座は中1・2で行い、理科の実験や数学ではフェルミ推定など、教科書に載っていない内容を学んでいきます。「やってみる」「好きになる」ということを増やす講座です。また、CLILと題したプログラムでは、ネイティブの教員が英語で数学・理科・社会の授業を行います。これが後の海外研修につながります。先日は中2生がシンガポールとベトナムを研修旅行で訪問しましたが、現地の学校の理数教育に刺激を受け、理科と数学の勉強を熱心にするようになった生徒もいます。中3ではアメリカに行き、マイクロソフトやNASAなど、最先端の企業や研究所を訪れます。NASAでは、宇宙についてはもちろん、「研究とは何か」ということについても学びます。
 さらに、研究論文を理解するために「論理国語」の授業を実施。仮設の立て方や論理的な表現力、ディベートの仕方などを学びます。そういったことをできるようになった段階で、「未来のサイエンティスト講座」で研究をスタート。最終的には文化祭の傑作展で個人研究を展示し、高校生は発表も行います。

 西大和学園の理科教育は、授業とSSHの活動が両輪になります。キーワードは「探究」と「しこう力」です。思い考える「思考力」だけでなく、試して行う「試行力」も大切にしています。授業のなかで、たくさんの体験とともに知識を深掘りしていくことで理科を深く学んでほしいと考えています。たとえば、中1でウミガメの産卵の見学に行くなど、体験学習を重視。日々の授業は専科制を採用し、中1段階から物理・化学・生物・地学をそれぞれ専門の教員が6年間指導しています。一方、「試行力」を育てるために、さまざまな研究活動を実施。SSH指定校として中学段階から種をまき、中2では企業とコラボレーションするプログラムに、中3ではみずからのテーマを立てて研究をする卒業研究に取り組みます。
 高校生になれば、大学でのラボステイとして、京都大学や大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学の研究室で3日から1週間の研究活動に取り組みます。発表する機会も用意し、学会やコンテストにもたくさんチャレンジしています。国際科学オリンピックで賞を獲得する生徒も少なくありません。「思考力」「試行力」を組み合わせていくことで、志高く向かう「志高力」も育てていくことができると考えています。本校ではそんなわくわくする経験がたくさんできる理数教育を大切にしています。

立見 SAPIXでは、理数教育についても双方向授業を重視しています。たとえば算数は、解き方が一つではないことがよくありますが、授業のなかでも、いろいろな解法をみんなでやりとりしています。子どもたちが授業にどんどん参加して力を伸ばす塾です。また、算数は個人差がどうしても大きい科目ですが、関西圏の校舎では1クラス10人ぐらいの少人数制を採用し、ノートの提出や過去問の添削も一人ひとりに対応。理数科目を強くするためのフォローアップをしています。